ローカルゼブラ実証事業

支え合い、挑戦する地域はなくならない

能登の人事部では、2024年8月〜2025年2月にかけて能登の企業7社とともに「実証ラボ」を通じて、能登半島地震からの復興のその先について議論を深めてきました。

実証ラボでは、毎月1回勉強会を開催し、地方中小企業の人に関する実践的な取り組みを行っている外部講師招聘し、事例や質疑応答を通じて、人が集まる企業群になるための哲学と方策を学びました。また、総括の場として、能登の人事部が主催した2025年2月15日の能登の復興を考える「のと発酵的復興会議2025」において、勉強会での学びや議論を活かした取り組み紹介を行いました。

「人を育て、事業を伸ばす」企業の集まりが、能登の復興を見据えている現在地をレポートします。
(記事:2025.2.27)

※当事業は、「令和6年度地域の社会課題解決企業支援のためのエコシステム構築実証事業(地域実証事業)」を活用して実施いたしました。

企業が共に高め合い、能登の復興を実現する/ローカルゼブラ実証事業の報告会を開催

「それぞれが前進しながら、ともに高め合い、復興を成し遂げよう!」。株式会社御祓川は2025年2月15日、輪島市の能登空港敷地内にある仮設飲食店街「NOTOMORI」で、ローカルゼブラ実証事業の報告会を開きました。能登半島地震から1年が経った今も懸案が多い中、能登一円から集った経営者たちは、各社の成長を通して地域の再生に貢献することを誓いました。 

「ローカルゼブラ企業」はビジネスを通して地域課題を解決し、社会や環境に対してプラスのインパクトを創出します。その過程では一企業として成長するのに加え、ゼブラ(シマウマ)のように群れをなして行動する特徴も持ち合わせています。

私たちが住む能登には小規模な事業者が多く、大きな課題に対して個々の企業だけで対応するには自ずと限界があります。そのため、共通の課題には意欲ある企業同士が手を携えて向き合えるかどうかが、これからの能登の行方を左右するとも言えます。

今回の報告会では「能登のローカルゼブラ企業と考える『自社の生存戦略✕復興ビジョン』」をテーマに、3人の経営者が登壇して取り組み状況を発表しました。 

大切なのは主体性と受援力

現在の能登は未曾有の大地震の被災地であり、未解決の課題がそこかしこに残っています。そんな困難な環境下で、ある企業が力強く復興していく様子は、他のプレイヤーが立ち上がるための呼び水になり得ます。すると、それを見てさらに別の挑戦者が現れるという「うねり」を生めるかもしれません。

こうした好循環を地域内に起こすため、御祓川の森山奈美代表取締役はあいさつで「大切なのは主体性と受援力」だと紹介しました。受援力は困ったときに助けを求めたり、差し伸べられた手を受け入れたりする心構えのこと。自らの意思で行動しながらも、他者の協力を得て複雑で大きな問題に立ち向かうのです。

森山は「私たちは復興のプロセスで未来に何を残せるのか。自分たちで自分たちのビジョンを描こう」と呼び掛けました。

経営戦略と人材戦略をセットに

次に、株式会社ノトツグの友田景代表取締役が能登に関する外部環境調査の結果を発表しました。友田さんは能登の労働者1人当たりの付加価値額が全国平均や石川県全域と比べて低いと示した上で「まずは経営戦略と人材戦略をセットで考え、生産性を向上させないといけない」と指摘しました。

労働市場ではこれまで、人手の不足分を女性や高齢者の活用によって補ってきたところがあります。しかし、今では労働意欲のある女性やシニア人材の採用が進み、既に余剰人員が枯渇気味になってきた現状があります。さらに、能登地域の人口は2020年から2050年までの30年間で半減すると見込まれ、人材の獲得をめぐる環境が今より改善するとは考えにくくなっています。

そこで、友田さんは付加価値額を上げて得た利潤を賃金に反映させるとともに、働きやすい職場づくりを通じて労働条件で他の地域に見劣りしない状況をつくることが大切だと説明しました。

「空き家不足」がネック

ただ、能登半島地震後に企業の積極採用を難しくしているのが「空き家不足」です。能登では長らく、人口減少や高齢化に伴う空き家の増加が課題でした。ところが、地震で既存の空き家がダメージを受けたり、自宅を失った人が空き家を買って住み替えたりした結果、空き家ストックの消化が急速に進んだのです。

こうなると、地元企業が新たに地域外から人材を雇い入れようにも、住んでもらう場所がありません。友田さんは「これは地震前に存在しなかった問題で、1社だけでは解決が難しい。たとえば複数の会社が共同で社宅を設けるような解決策が有り得るかもしれない」と提言しました。

震災1年の「リアル」語る経営者3人

次に、ローカルゼブラ企業3社の経営者が震災から1年を経た現在地について報告しました。以下では3人の発言を要約します。

今こそ根本から見直し/数馬酒造株式会社 數馬嘉一郎代表取締役

元日の地震によって製造に関わる建屋6棟のうち4棟が大きく損傷しましたが、1月3日には責任者間で復旧に向けた認識を共有し、8日までには東北大震災で被災した酒蔵、年間を通して醸造している酒蔵へのヒアリングを済ませました。

その後は同業他社の協力を得られたため、酒造りを継続できました。ただ、他社へ醸造を委託する際にも、能登で酒米を生産する農家を守るという観点から契約栽培米のみを使うよう要請しています。

被災によって思うように製造や営業ができない中で、むやみに手を広げるのではなく各地で開かれる「復興フェアに出展しない」など「やらないこと」を明確にしました。逆に、自らのコントロールが及ぶ範囲のことに集中して取り組むという方針も決めました。

歴史の長い企業になると、これまで積み上げてきた製品や製法が根付いていて、日ごろは部分最適の視点からの改善にとどまってしまいがちです。しかし、被災によって全ての製造機能がストップしたことを受けて「全体最適の視点からすべてを見直して復活しよう」と考えるに至りました。

これからは10、20年後に自社がどのような企業になり、社員がどのような働き方ができるかを常に意識しながら、若い人を呼べる会社になりたいと思っています。

観光客だけでなく住み良いまちに/和倉温泉「多田屋」 多田健太郎代表取締役社長

七尾市の和倉温泉では震災前に22軒あった組合加盟の旅館が、震災後に21軒に減りました。このうち、地震から1年が経って稼働できているのはわずか5軒ほどで、多くは今も休業を余儀なくされています。

私自身は多田屋の社長として復旧を急ぐ傍ら、和倉温泉全体の復興ビジョンをつくる責任者も務めました。ビジョンでは温泉街をゾーニングして回遊型の観光地とし、これから温泉街を支える人々が不足する可能性を考慮して複数旅館による共同送迎・共同仕入れの実施、教育・暮らしの機能充実などを掲げました。

それらを実現するには意識改革が必要です。今の和倉温泉は寛容性が低いというか、新たに事業を始めようとする人に対し、歓迎するというよりも「うちの邪魔になるのではないか」と敵視してしまうところがあります。また、観光客だけでなく住民やスタッフが住みよく、子どもたちが「和倉に住んで、和倉のためにがんばるんだ」と思える街にしてはじめて、持続可能な温泉街になると思います。そういう意味での意識改革です。

多田屋は現在も休業が続いており、これから建て替えを予定しています。新しい建物が完成した暁には、日常と非日常の交わる特別な宿として復活したいと考えています。

能登で覚悟を決める/ザアグラリアンテーブル合同会社 山口侑香代表社員

ローカルゼブラ実証事業を通じ、私が得たメリットは「ネットワークの拡大」「課題解決と知識共有」「精神的なサポート」の3つです。能登半島地震の後は考えなければならないことが多く、しかし自分一人で考えても前へ進めないようなこともたくさんありました。そんな中、一緒に立ち上がって頑張ろうとしている経営者と話し、つながりを持てたことは、とてもありがたいことでした。

先日、石川県外へ出張した際に、その地域が「目指す地域のあり方」をまとめているのを目にしました。翻って能登の経営者コミュニティの意義を考えると、それは「ともに挑む未来」ということなのではないかと考えました。

つまり、自社だけでなく地域の将来にもしっかりと目を配るということ。みんなが能登で覚悟を決め、一緒に未来へ向かうことが大切なんだ、とあらためて感じました。そういう志を同じくする方々と、これから先いろいろな取り組みを進めたいです。

グループセッション

続くグループセッションでは4つのテーマを設定しました。参加者は自身が関心を持つテーマを選び、ベテラン経営者から会社員、学生までが膝を突き合わせて意見を出し合いました。議論の内容をまとめます。

①「ワークとライフの統合」前提に仕組みを/能登の企業が生き残るには?

海外に目を向け、世界に能登を売ることで客単価を引き上げ、そこで得た利益を従業員に還元することで人材を確保します。

従業員と仕事の関係性というと、真っ先に「ワークライフバランス」という言葉が思い浮かびます。しかし、能登ではもともと「ワーク」と「ライフ」が統合されていて、相対させるものではありません。働きやすさが暮らしやすさに直結しやすい地域柄なので、これからはワークシェアリングなど生活に合わせて柔軟に働ける仕組みづくりが大切になります。

②能登ならではのマルチワークを推進/働き手を確保するには?

能登には宿泊業や酒造業など四季の移ろいとともに繁閑の波が大きな仕事があります。一方で最近はマルチワークを希望する若者も一定数いることから、能登での「複業」を推進してみるのは良いと思います。

また、他の地域から能登へ移住する際には、社員が地域コミュニティーになじめるかどうかという観点が重要です。企業側も地域のイベントや行事を通じて地域と社員がなじむように仲介役を果たせると、能登に根付く人が増えてくれそうです。

③止めるという決断も大切/稼ぐ力を高めるには?

まずは「稼ぐ」という目的をしっかりと定めることです。そして、数値で成果を定量化できるようにするのも大切です。

ただ、外部環境は常に変わっていますから、「稼ぎ続ける」ということを意識する一方で、状況が悪い方向に変化したと感じたら、傷が広がる前に止めてしまうという決断も大切です。早めに撤退や中断を決断することも、回りまわって稼ぐ力を高めることにつながります。

④共感してくれる「代弁者」を /トップの想いを組織に浸透させるには?

社員とコミュニケーションをとる時間を意識的に設けたり、自分の想いを伝えてくれる代弁者を置いたりすることが解決策として考えられます。

ところが、この「代弁者」をどうやって見つけてくるかが難題です。この点、そうした人物が社内にいなければ、たとえば社外に経営者自身の想いを発信し、それに共感して入社してくれる人は代弁者としての素質があるとみられます。

強く、温かく

能登半島地震による被害の甚大さを受けて「過疎化が10年進んだ」「課題が20年前倒しになった」という声が上がっています。

確かに、そうなのでしょう。2024年1月1日、自然の強大な力を前に、私たち人間はあまりにも無力でした。

それから1年。崩落した海岸線の脇には新たな道路が完成し、損傷した住宅の解体や補修が徐々に進んで建て替え工事が始まったところもあります。被災した企業の社員を他社が受け入れ、生産機能を代替する動きも続いています。震災直後に遠くから駆け付け、ほとんど自宅に戻らず支援活動を続ける人もいます。

人間は強く、温かい。復旧から復興、その先へ。誰かではなく、みんなで能登の未来をつくるのです。

「実証ラボ」実施の経緯

令和6年3月、能登半島地震から間もなく、中小企業庁から「地域課題解決事業推進に向けた基本方針」が発表されました。ビジネスの手法で地域課題の解決にポジティブに取り組み、社会的インパクト(事業活動や投資によって生み出される社会的・環境的変化)を生み出しながら、収益を確保する「ローカル・ゼブラ企業」の創出・育成を支援するという方針が、示されたのです。そして、地域課題解決に取り組み、社会的インパクトの創出と持続的な成長を目指す実証事業者に対しての、支援体制構築、先行事例創出を目的とした事業の公募が始まりました。


震災後の復興に取り組まなければならない能登の企業が、これから能登の地域課題に取り組んでいくために、「能登の人事部」では、ローカルゼブラ企業群が、復興を担う人材を能登で育て続けるカギになると考え、中小企業庁および連携機関とともに、事業戦略のブラッシュアップや社会的インパクトの可視化等に取り組んむことを決め、同事業に応募をして採択されました。

採択事業のお知らせ(中小企業庁)https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki_kigyou_kyousei/2024/ecosystem_overview.html

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