休業からの建て替えで「特別な宿」へ/和倉温泉「多田屋」

七尾市和倉温泉は大きな転換点に立っています。2024年元日の能登半島地震によって旅館が軒並み休業に追い込まれ、1年が経ってなお大多数が営業を再開できていないのです。創業140年の老舗旅館「多田屋」もまた休業が続く宿の一つではありますが、足元では現在地での建て替えに向けて準備を始めました。

多田屋はもともと総湯の近くにあり、およそ50年前、海辺の立地を求めて和倉温泉の西端に移ったことで、一年を通じて夕陽を眺められる和倉唯一の宿となります。建物は海にせり出した構造で、一部の客室では露天風呂に浸かりながら魚釣りを楽しみ、釣り上げた魚を調理してもらえるなど、自然を身近に感じられる宿として愛されてきました。

ただ、既存の建物はバブル期の増築によって大きくなりすぎ、団体旅行が主流だった頃の設計であるために個人客メインの現代では持て余すところがあったといいます。そこで、建て替え後は七尾湾に突き出した桟橋など、これまでの多田屋を特徴づけてきた設備を残しつつ、現代の旅行トレンドに合わせた施設に生まれ変わらせます。

もっとも、新しい建物が完成するのは2027~28年で、営業再開までには長い年月を要します。そこで、多田屋は在籍型出向という形でスタッフを他社に派遣し始めました。多田健太郎社長は被災後、旅館業の裾野の広さや地元住民・商店と協力する大切さを再認識したといい、出向したスタッフには普段と異なる角度から能登を見つめた経験を、旅館へ復帰した後に生かしてほしいと語ります。

「高級な宿ではなく、特別な宿になる」。その「特別」を自分たちの日常にする瞬間を迎えるため、多田屋は歩き続けています。

メンバーの活躍が尻を叩いた/代表取締役社長 多田健太郎さん

地震から時間がたつにつれ、能登の各企業の事業活動は正常化していきました。ところが、私は休業が続く多田屋の再建だけでなく、和倉温泉の復興プランをつくるという大きな仕事を担ったため、とりわけ2024年の前半は多田屋に割ける時間が多くありませんでした。

そんな中、実証ラボのメンバーが活躍する姿を見て「みんなが経済を回し始めている。早く自分も…」と思いました。当時、温泉街全体の仕事のために半年分のビハインドを抱えてしまっていた私は、お尻を叩いてもらった感じです。

実証ラボの特長は自身に足りない視点を吸収できるところでしょう。私はエモーショナル(情緒重視)な性格だと自認しているのですが、逆に経済合理性を重んじる経営者もいます。タイプの異なる方と話していると、アイデアを出す角度も違うので参考になります。

また、ラボメンバーのエフラボさんの工場視察では、普段なら社外に公開しないような休憩室なども見せていただきました。事業分野が違っても共通の問題意識はあります。旅館業も多くのスタッフを抱えており、エフラボさんの設備見学は社員の労働環境に対する他社の姿勢を知る貴重な機会でした。

私はもともと「旅館」という既存の枠を外すため、さまざまな企業とコラボしたいと考えてきました。実証ラボのメンバーは業種こそ違えども意欲ある経営者ばかりです。今後そうした方々と連携して能登を盛り立てていきたいです。

他の業種と横断できる人を

現時点では人材を募集していませんが、営業再開後は旅館と他の業種の企業を横断するような働き方を実践してみたいと考えています。

そもそも、旅館業は観光客と地域の住民や企業をつなぐ仕事です。たとえば冬は仕込み作業に忙しい酒蔵で働き、夏に旅館に戻って自分が携わった地酒の魅力を生き生きと語れるスタッフがいても良い。旅館の一般的な業務をこなすだけではなく、お客さまとのコミュニケーションを通し、自らのことばで能登の楽しみ方を表現できるような、そんな価値をつくっていける人に、いずれは来てほしいですね。

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