日本海に面した「地域コミット型」の宿/ザアグラリアンテーブル合同会社(木ノ浦ビレッジ)
能登半島の北端にある珠洲市折戸町、日本海を見渡せる海岸べりに「奥能登すず宿泊体験施設 木ノ浦ビレッジ」があります。斜面を利用した敷地には8棟のコテージが点在し、家庭菜園も。それはまるで1つの集落のようで、木の温もりと潮の香りを感じられる、アットホームで能登らしい宿です。
運営しているのは、ザアグラリアンテーブル合同会社。2019年設立で、代表の山口侑香さんは32歳です。そう聞くと、若いスタッフばかりの組織をイメージするかもしれませんが、50、60代のスタッフも活躍しています。宿泊施設から派生してカフェも営業しており、マリンアクティビティや貸し切りサウナにも取り組んでいます。
さて、この珠洲市は2024年1月の能登半島地震の震源地で、市域全体に甚大な被害が発生しました。木ノ浦ビレッジも損傷を受けたものの、震災後すぐに近隣住民を受け入れて避難所として活動しました。その後、住民の生活が少し落ち着いてきた3月末には、復旧作業に携わるため全国から駆け付けたボランティアの方々の前線基地として稼働を始めます。
その頃の珠洲市内では、そこかしこで住宅や倉庫が崩れていました。日中を悲しみの詰まった災害現場で過ごしたボランティアの方々に対し、木ノ浦ビレッジは休息の場として側面から復旧を支えました。
山口さんは木ノ浦ビレッジの特徴を「地域コミット型」と表現しています。半島の先端という立地を考えると観光客が道中に立ち寄る先が必要ですし、宿泊施設を営業するには地元食材の仕入れ先や働いてくれる地元住民の協力が欠かせません。「宿がメインというより、いかに周りの資源を生かしながら自分たちの魅力を上げるかを考えている」。自分たちと地域を天秤にかけるのではなく、ともに歩む。その姿勢が住民の避難所としての活用、災害復旧に携わる人々の積極的な受け入れにも現れています。
いま、正面エントランスには「頑張るげん!!珠洲!!」と記された大きな寄せ書きが掲げられ、宿泊した方々から能登へ、珠洲へ、そして木ノ浦ビレッジへ宛てたエールと感謝が溢れています。応援するので、応援される。文字でびっしりと埋まった寄せ書きは、そういった宿の雰囲気を物語っているようです。
「つながり」の良さを実感/代表 山口侑香さん
珠洲市は能登半島地震において最も大きなダメージを受けたエリアです。特に内浦側の集落には壊滅的な被害が発生しました。私は外浦側にある宿として可能な限りの対応をしてきましたが、目の前で起こっている惨事が大きすぎ、どうしても珠洲市内のことで頭がいっぱいになることがありました。
実証ラボは広く能登半島全域の経営者が参加する枠組みであり、いま振り返ると「珠洲市以外の経営者とつながる場があって良かった」と感じています。月1回の定例会の場では、震災に関連した補助金の要件のように手続き的な情報が手に入ったほか、珠洲市外の経営者と話すことを通じ、それぞれの市町の復旧・復興のスピード、民間企業が果たしている役割を把握できました。
珠洲市は地震被害があまりに大きく、被災直後は復旧の最後尾を歩いていました。この状況を少しでもプラスに生かせるとしたら、それは各市町で実施された取り組みを参考にして自分たちの行動を考えるという形でしょう。この点、他市町の経営者と情報共有できる実証ラボは貴重な機会だったと思っていますし、自分が辛い時に周りの先輩経営者が踏ん張っている姿を見て、どこか背中を押されたような気持ちになれた。私にとって、実証ラボはそういう場でした。
珠洲の現場で活躍するマネジメント人材
現場をマネジメントしてくださる人材を求めています。私自身が能登を離れることもありますので、その際に現場をすっかり任せられる人がいるとありがたいです。外注や副業の方に一部の業務をお願いすることもできないわけではないのですが、やはり接客業なので、珠洲に住んで、現場で直に雰囲気を感じて働いていただきたいです。
接客業はマルチタスクで、弊社は宿泊施設だけでなく飲食施設としても営業しており、日夜さまざまな質問や要望が出てきます。マネジメントに入っていただく方に接客業の経験は問いませんが、とは言え、そうしたお客さまの希望の背景まで察して行動できる想像力と柔軟さは求めたいと思っています。