1965年に能登・七尾市で運送業を開始し、現在は観光向け貸し切りバスや高速夜行バスの運用、日帰りツアーなどの旅行業を柱とする「丸一観光」。「まるいちのまるいい時間。」をキャッチフレーズに常にパイオニア精神を持って事業を展開し、2020年夏から「新たな事業の推進力に」との思いで、兼業人材を活用しています。
コロナ禍の影響により大きな打撃を受けた観光業。苦境にくじけず「今できることは何か」を模索しながら前進し続けた、丸一観光と兼業人材の皆さんの足跡をたどります。
手元にあるツールを「宝の持ち腐れ」にしない。情報発信の必要性と課題の洗い出し
丸一観光は県内でも指折りのバス会社として知られ、観光業においては石川県内はもちろん、北陸エリア全体にちらばるさまざまな魅力の掘り起こしに注力しています。最近では、観光地を周遊するような従来の観光スタイルではなく、その土地でしかできない体験や、地元の人だからこそ知っているディープな魅力を味わえる旅行プラン「着地型観光」事業を立ち上げ、これと併せて社員とともに商品企画に携わる兼業人材を募集。2020年10月から5人の兼業メンバーとともに事業を本格的に始動しました。
新事業のスタートと同じくして、丸一観光ではさらに兼業人材を募ることに。次に求めたのは、SNSやウェブ媒体の戦略的な運用のサポート人材でした。同社の常務取締役・経営企画室室長の木下恒喜さんによると、SNSやウェブ媒体の活用は長年課題となっていた点だったそうです。
木下さん 多様な事業展開が、当社の魅力です。けれど単に商品を提供しているだけでは、こういった魅力を伝えきるのはなかなか難しい。より手軽に、身近に、会社のことを知ってもらえるきっかけをつくることは非常に重要と感じていました。
課題は自覚しつつも「SNSやウェブ媒体を上手に使いこなせず、もったいない状態にあった」と振り返る木下さん。課題をクリアするためにも、広報戦略に関する専門知識やスキルを持つ人材は不可欠だったのです。
木下さん 兼業人材を募ったタイミングは、まさにコロナ禍の真っ只中。観光業にとっては非常に苦しい状況に置かれる中でも、会社としていろんなことに取り組んでいるというのを率直に発信したいと思いました。歩みを止めずに進む当社の姿を、届けたかったのです。
そして、首都圏在住でSNS運用に関するノウハウを持つ人材を採用。プロジェクトは「広報戦略の方向性を打ち出し、運用を仕組み化すること」という最終ゴールに向けて動き始めました。
習慣化をめざすにあたり取り組んだ「週1回の振り返り」
プロジェクト始動時から続けてきたのが、週1回のミーティングです。木下さんとSNS運用を担当する社員、そしてオンライン経由で参加の兼業人材で、1週間のSNS投稿の内容を振り返ります。
木下さん 毎日のSNSの投稿は社員が担当しています。ミーティングでは投稿に対してどんな反応があったのか、リーチやエンゲージメント、インサイト分析などを行ってきました。さらに、時間があれば兼業人材の方からSNS発信に関すアドバイスや、最近のSNS運用のトレンド、SNSごとの利用者の推移や他社事例などをレクチャーしてもらいます。
「兼業人材はコーチみたいな存在」と表現する木下さん。情報発信のノウハウを持つ人材を、プレーヤーではなく見守る立場に据えたのは、将来的に社内で自走できるようにしたいという思いがあったからだといいます。
木下さん 何が良いのか悪いのかもわからないまま、やみくもに取り組んでいても息切れしてしまいますからね。『これは良い傾向』『改善したらより良くなる』といったような評価があれば、指導を受けた社員のノウハウとして蓄積され、持続性が高まります。また、社内の人間だけで進めていたら、馴れ合いが生じていたかもしれません。兼業者という“離れた存在”が見守るという構図が、程よい緊張感をもたらしたと感じます。
2020年秋から始まった取り組みは、あっという間に1年が経過。以前は「前回の投稿から1年以上経過している」なんてことも珍しくなかったにもかかわらず、現在では毎日投稿が当たり前になりました。
木下さん プロジェクト自体は3ヶ月で満了しましたが、私共の方から『引き続きサポートいただきたい』と依頼しましたら快諾くださり、現在も継続してコーチ役を務めていただいています。こういった関係性が築けるのも兼業ならではといったところではないかと思いますね。
SNSやウェブ媒体は、社員一人ひとりの「伝えたい」の窓口
プロジェクトを進めてきた中で、思わぬ副産物もあったそうです。それは、社内コミュニケーションの活性化。例えば、「フェイスブックの投稿に協力してもらいたい」とバスのドライバーに旅先の様子を写真に撮ってきてほしいとお願いすることも。写真で何を切り取るかはドライバー次第で、人柄や感性が浮かび上がる投稿にフォロワーからコメントが寄せられるケースもあるそうです。アイデアを募るために他部署に相談したり、投稿に協力した社員をミーティングに同席させたりと、会社全体を巻き込んで発信に取り組んできたことで、社員も意欲的に協力してくれるようになったといいます。
木下さん 以前と比べ、社員一人ひとりの中に『伝えたいこと』『知ってもらえたらうれしいこと』が浮かび上がるようになってきていると感じます。もともと、SNSやウェブ媒体の活用に力を入れたいと考えたのも、こういった社員の気持ちを代弁し、外に向けて広げていくことをしたいと思ったから。だんだんとその仕組み、文化が生まれつつあると思うとうれしい限りですね。
最後に、兼業人材にどんなメリットがあったかを聞いてみました。木下さんの答えは「兼業人材は中小企業の『やってみたい』を支え、次の挑戦の糧を見出すきっかけとなる、一歩踏み出す勇気をくれる存在」。限られた経営資源の中で、やりたいと思ったことを諦めるのも選択肢のひとつです。けれどそこで粘り強く「できる方法はないか」を模索するとき、兼業人材は大きな力となる存在として輝くのかもしれません。
受け入れ企業概要
- 企業名:株式会社丸一観光
- 活用期間:2020年11月~2021年3月
- 活用メニュー:兼業人材(ふるさと兼業)導入
https://chubu-jinzai.meti.go.jp/media/case-introduction/p4535/
「地域中小企業のための副業兼業インターン人材活用プラットホーム」に掲載された記事を引用しています